ガラス電極を使ったpH測定
薄いガラス膜を隔てて2種の溶液を接触させると、両液のpHの差に比例した電位差がガラス薄膜に発生します。これを利用するのがガラス電極によるpH測定です。
薄いガラス膜で作られた容器の中にpHの判っている溶液を入れ、これを被検液の中に浸すと、ガラス膜の両側に起電力を生じます。そこで溶液A、Bに適当な電極E1、E2を浸し、その両電極間の電位差を電圧計Vで測定すれば、ガラス膜に発生した起電力、つまり溶液A、BのpHの差が判ります。
ガラス電極法の長所と短所
ガラス電極を用いたpH測定を前に述べた各種の測定方法と比べると、つぎのような長所、短所があります。
(長所)
1. 測定範囲が広い。
0~14pHの広い範囲にわたり実用上問題ない性能をもっています。 これはキンヒドロン電極やアンチモン電極に比べ著しく広いといえます。
2. 応答が速い。
いままでのすべての方法に比べ、短時間で測定できます。特にアンチモン電極によるものでは、指示が安定するまで数分を要し、また比色法も時間のかかるものがあります。
3. 操作が簡単。連続測定が可能。
水素電極やアンチモン電極に比べ操作が簡単であり、指示薬を用いる方法では困難な連続測定が容易にできます。
4. 再現性がよく、操作誤差がない。
指示薬やアンチモン電極を用いる方法では測定する人が違うと、測定結果が異なるという個人差がありましたが、この方法ではそれがほとんどありません。
5. 塩誤差、タンパク誤差などの各種誤差が少ない。
他の測定方法では塩誤差、タンパク誤差などが大きく、また酸化、還元物質があると測れないことがあります。さらに指示薬を用いる方法では色のついた液や純水の測定は困難です。
(短所)
1. ガラスが壊れやすい。
従来の電極に使われていたガラス電極の薄膜は厚さが0.01~0.05㎜程度であったため、壊れやすく、取扱い上注意を要しました。しかし、最近のものは0.2㎜以上の厚みがあるので、この欠点は解決されつつあります。
2. 電極の内部抵抗が高い。
水素電極、キンヒドロン電極、アンチモン電極などの方法では電極系の電気的な内部抵抗が低いので、通常の直流電位差系などで電位差の測定が可能ですが、ガラス電極法では、ガラス膜の電気抵抗が高いので、入力抵抗の特に高いミリボルトメーターを使わなければなりません。また測定回路全体の絶縁抵抗もきわめて高くする必要があり、取扱い上容易ではありません。しかしガラス材料の進歩によって、ガラス膜の抵抗も幾分かは低くなってきており、計器の法も進歩し、測定はより容易になってきています。
上記のように、このガラス電極による測定は、精度が高く、測定対象の制限が少なく、しかも連続測定が可能であるなど工業的な目的にも適合しているので、pH測定の標準的な方法とし、JISにも採用され、最近ではpH測定といえばガラス電極と言われるほど普及しています。
また、プロセスオートメーションにおける自動制御の検出部として多数使用されています。
ガラス電極法におけるpH測定の際の注意点
1. 温度補償
単位pH当たりの起電力は温度によって変化しますので、この温度による膜起電力の変化を自動温度補償電極で補償しなければなりません。
2. スパン調整
実際のガラス電極では単位pH当たりの起電力の値が(温度一定の場合でも)必ずしも理論と一致するとは限りません。そこでpH4またはpH9の標準液を用いて調整することにより、理論電位こう配との差違の補正を行う必要が生じてきます。 これをスパン(SPAN)調整JISでは感度調整と呼んでいます。
3. 不斉電位の補正
ガラス電極の膜の内外に同じpHの液を入れた場合、理論的には膜起電力は0(mV)となるはずです。しかし、実際はガラス膜の厚さ、製造工程の熱処理などによって多少の膜起電力を生じます。 また、ガラス電極、比較電極の内部極同志の電位差も存在します。 これらを一緒にして不斉電位をpH7の標準液用いてpH計の指示値が7になるように調整します。これを不斉電位調整、JISでは非対称電位調整といいます。
4. アルカリ誤差
強アルカリ性の溶液のpHを測るとき、発生起電力がpHに比例せず、直線性がくずれます。これをアルカリ誤差と呼びますが、ガラス膜の組成によってその大きさが異なるばかりでなく、被検液の中に存在する陽イオンの種類と濃度また温度によっても著しく異なります。(ナトリウムやリチウムイオンが存在する場合は大きく、これらのイオンの濃度が増すほど、また温度が上がると増大する性質があります。) そのため、アルカリ誤差を表示する場合には、これらの諸条件を明記しておく必要があります。
5. 酸誤差
酸の種類によって、誤差を生ずることを示したもので、縦軸はアルカリ誤差と同じように直線関係からの偏差です。H2SO4、HCℓについて測定されていますが、HCℓのみが特に大きな誤差をもっています。この酸誤差はその大きさが、アルカリ誤差に比べて小さいので、実用上はほとんど問題になりません。
複合電極
pH測定には、1本のガラス電極、1本の比較電極を組み合わせて、また温度補償電極をも組み合わせて使用します。それらの各電極を1本にまとめたものが複合電極です。
電極の寿命
ガラス電極を使用していると、各種の原因によって不斉電位の増加、電位勾配の減少、電気抵抗の増加などが生じます。 これらの原因の主たるものは下記の通りです。
1. 電極膜の腐食
2. 内部極の劣化
3. 内部液の変質
4. 電極膜の汚染
電極の保守
【電極の洗浄】
pH電極のガラス電極や液絡部に汚れが付着すると、測定値が不安定になったり、応答速度が遅くなります。電極洗浄は、細目に行ってください。(自動洗浄機能付きの電極もあります)
1. 懸濁物・粘着性物質・微生物などによる汚れの場合
純水または、清水で汚れを洗い落としてください。
2. 油性物質による汚れの場合
ビーカーなどに入れた中性洗剤溶液に浸して汚れを洗い落としてください。 その後、純水または、清水で中性洗剤溶液を洗い落としてください。
3. 金属の吸着などの科学的汚れの場合
1~2%の塩酸溶液に数分間浸して汚れを洗い落としてください。 その後、純水または、清水で塩酸溶液を洗い流してください。
標準液校正
電極の起電力は、電極の劣化が進行するとともにかわり、付着する汚れの影響もうけます。 したがって正確な測定を維持するため定期的に標準液校正を行ってください。
電極内部液の点検
電極ホルダーの中の内部液(3.0 moℓ/ℓ塩化カリウム溶液)が十分に入っているか確認してください。不足している場合は、補充してください。
その他 注意事項
1. 電極系は高い絶縁性が必要ですから、常に接続部の乾燥に心掛けてください。
2. 振動を与えないでください。
3. 接続部にゆるみや断線がないか、点検してください。
自動洗浄器付電極ホルダーの種類
自動洗浄器付ホルダーとは、電極の汚れを自動洗浄する装置を備えた検出器です。 電極の汚れが、測定誤差の原因となることは先にも述べましたが、この問題に対処できるように下記のような各種の自動洗浄器付ホルダーがあります。
1. 超音波洗浄方法
・超音波で洗浄する方法です。 測定中の連続洗浄が可能、消耗品がありません。
2. ブラシ洗浄方法
・ブラシなどで洗浄する方法です。 測定中の連続洗浄が可能です。 洗浄効果が大きく、他の洗浄方法では落ちにくい汚れもきれいに落とせます。 結晶や粒子状のものが存在する場合には電極膜面を傷つけることがあるので注意が必要です。
3. 水ジェット洗浄方法 二薬液洗浄方法 超音波で洗浄する方法です。
・水ジェット方式 ・噴水流の圧力と水の溶解力によって、洗浄する方法です。 測定中の連続洗浄が可能です。 結晶化したり、スケールが付着しやすい場合などに適しています。
3. 薬液洗浄方法
・薬品により、化学的に汚れを落とす方法です。 薬品を使うので一般に測定中の連続洗浄は出来ません。