pHの法規定

 

法律で規定されているpH値

pH値には、法律で「これ以上・これ以下にしなさい」と規定されているものがあります。

代表的な法令に水質汚濁防止法や、飲料水適合基準があります。

これらは前著した「製品を製造するpH」とは違い必ず守る必要のある値になります。

またそれぞれに放流先によっての規定や地域での規定がありますので、ここでは代表的な法令を解説します。

詳しくは事業所の役場の管轄担当へ照らし合わせて下さい。

 

水質汚濁防止法

「水質汚濁防止法」は、公共用水域及び地下水の水質汚濁の防止を図り、国民の健康を保護するとともに生活環境の保全すること等を目的として制定されました。

水質汚濁防止法では、特定施設を有する事業場【特定事業場】から排出される水について、排水基準以下の濃度で排水することを義務づけています。

 

排水基準により規定される物質は大きく2つに分類されており、1つは人の健康に被害を生ずるおそれのある物質【有害物質】を含む排水に係る項目です。

有害物質については 27項目の基準が設定されており、有害物質を排出するすべての特定事業場に基準が適用されます。

もう一つは水の汚染状態を示す項目生活環境項目】です。

生活環境項目については、15項目の基準が設定されており、1日の平均的な排水量が 50t以上の特定事業場に基準が適用されます。

 

特定施設とは?

上記にある「特定施設」とは具体的にどのようなものでしょうか?法令によると、

「特定施設とは、次のいずれかの要件を備える汚水又は廃液を排出する施設で、その種類は政令で定められています。

① カドミウムその他の人の健康に係る被害を生ずるおそれがある物質(有害物質)を含むもの

② 化学的酸素要求量その他水の汚染状態を示す項目(生活環境項目)で、生活環境に係る被害を生ずるおそれがある程度のもの」

とあります。また政令で定められた特定施設は一覧としてまとめられておりますので、詳しくはそちらを参照してください。

例としては

・農薬製造業の用に供する混合施設

・生コンクリート製造業の用に供するバッチャープラント

など、細かく定められています。

また、全国一律の基準とは他に、自治体によって厳しくなる項目もあり、例えば愛知県では、水質の保全を一層推進するため、一部項目については全国基準より厳しい上乗せ排水基準を定めています。

なお、pH値については一律排水基準その他の項目として、

5.8以上8.6以下(海域以外の公共用水域に排出されるもの)

5.0以上9.0以下(海域に排出されるもの)

と規定があります。

なお、「以上」と「以下」については、その値を含みますので、5.8以上の規定の場合は5.8は規定値内という事になります。

通常、排水の中和処理を行う際はこの海域以外の公共用水域に排出されるもの、を基準として中和処理します。

 

建設工事で発生する汚濁水のpH

一般的な建設工事で発生する汚濁水の排水は水質汚濁防止法の規制対象にはなりません。

但し、施工業者は工事地域や水域においてどのような規制がなされているのかを事前に調査する必要があります。

また、汚濁水を河川に放流する場合は、河川法によって河川管理者への届出及び許可が必要です。

なお、環境基本法を根拠とした河川環境基準法では、pH基準値は6.5から8.5に収まるよう規定があります。

前記しましたが、地域によって上乗せ排水基準の設定もある為、工事排水に関しては調査の上、排水水質を調整するようにして下さい。

例えば横浜市では、「工事排水を公共用水域に排出する場合」には「横浜市生活環境の保全等に関する条例」を厳守するように定めています。

pHの他に濁度、COD、BODなどが項目としてあり、pH値も5.8以上8.6以下と定められています。工事規模によって扱いが異なるようですので、必ず地方自治体に確認を取るようにして下さい。

 

飲料水適合基準

飲料水についての法令で代表的なものに、 厚生労働省 水道法第4条2項に基づく水質基準に関する省令(水道法)があります。

これによると51項目の規定があり、pH値は5.8から8.6の範囲内との規定があります。

また、いわゆるビル管理法「厚生労働省 建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則 第4条3、4」においてもpH値の値は5.8から8.6となっており、原則飲料水の供給に関しては水道法を基準として間違いないかと思います。

 

プール・公衆浴場などのpH

飲用として想定されていないものの、人の肌に触れ人の口に入る可能性もある場所として、「学校プール」「遊泳場」「公衆浴場」それぞれにpHの規定があり、それぞれに適用される基準の設定があります。

pH値に関しては、それぞれの場所でも同一になっており、こちらも飲料水適合基準と同じく「5.8~8.6であること」と規定があります。

 

水質汚濁法の施行状況

最後に、平成29年1月に公表された環境省 水・大気環境局水環境課がまとめた「平成27年度 水質汚濁防止法等の施行状況」から抜粋し、実際の法令施行状況の実態をご紹介します。

 

同法第22条第1項では、都道府県知事による水道汚濁防止法の施行に必要な限度において事業所への立入検査を認めています。

平成27年度の立入検査数は37,810件行われ、夜間立入がその内492件と報告されています。

なお、その内2,959件は瀬戸内海法上の特定施設を設置する工場・事業所への立入になります。

 

排水基準違反

同法12条第1項に基づき、排出水を排出する者は、排水基準に適合しない排出水を排出してはならない事とされています。

これに違反した場合、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されるとされていますが、実際の刑罰以上に取引先への信頼失墜などが企業にとってはダメージとなるケースが多いかと思います。

当然、排水基準を満たすまでは排水が出来ない為、生産は一時的に停止するしかなく、また排水処理設備はすぐに設置できる物でも無く、設置まで数か月かかる事がほとんどです。

実際にあった例では、金属加工会社よりホルムアルデヒドを含む排水が処理不十分により河川に流れ込み、そこを源泉とする水道浄水場から供給される飲料水にホルムアルデヒドが混ざってしまい、数十万戸の宅内へ供給されてしまいました。

それによる都道府県からの賠償請求は数億円にもなったとのことです。

平成27年度の排水基準違反の件数は3事業所あり、都道府県の調査によるものが0件、海上保安庁の調査によるものが3件でした。

違反項目の内訳としてはCOD、SSが2件、

BOD違反が1件、水素イオン濃度(pH)が

1件となっています。

右記の賠償請求額にもあるように、企業としては想定以上の排水対策をすることにより、信頼の失墜を防ぐことができます

 

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